全裸撮影ということでなんだかんだ騒ぎつつ、撮影は無事終了した。的場のおかげで、水シャワーをかぶりながら、
いけ好かない年増女を抱かねばならなかった男の後悔っぷりをリアルに演じられた。
名取の鍛えた体つきに監督が喜んで凝るものだから、すっかり冷え切ってしまった。
体調が悪いとは気づかれないようにしているので、境も安藤も気が気じゃなかった。
「呪術師としてもプロだが、俳優としてもプロだぜ、おまえは」
ようやく服を着ることを許された名取に、境が言った。
名取が、照れて笑った。
撮影が続けられる中、名取は女将に道を教えてもらって買い物に出る。
本当は休みたいが、着たきり雀でいるのも限界だ。帽子を深くかぶって門を出ると、走って来た車が目の前で停まった。
後部のウィンドウが下がった。
「お送りしますよ?」
的場、だ。
「結構ですよ」
「お礼にそれくらいさせて下さいよ」
「七瀬さんから聞いてないかな? 約束を守っていただければ十分です」
「聞きましたよ。了解しました。残念ですがね。お疲れでしょう? そこのアウトレットモールに行くんじゃないんですか?
通り道です。どうぞ」
的場自ら、内側からドアを開けた。
名取は、あきらめて乗り込んだ。
双方無言のまま、車は進んで行く。
名取は、痛む左肘をつかんで、的場の隣りにいるという嫌悪感に耐えた。
歩いて十分の道のりだ。車なら、あっという間のことだった。
「助かりましたよ、ありがとう」
名取がそう言って降りる時、的場が呟いた。
「こちらこそ、ありがとうございました」
車が走り去って行く。名取は、姿が消えるまで見送った。
あの的場の口から、本当に礼の言葉が出るとは。
思わず、笑ってしまう。
体調は最悪だが、少しは気分が浮上した。
名取は、若い女性だらけのアウトレットモールへと、足を踏み出した。