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人と人

「う、わ、あっ」
 3mほど前で、小谷が妙な声を上げていた。まだ、銃を握った手を上に上げたままだ。
 3秒前まで10mも上の木の枝に立っていたはずの的が目前に落ちてきて、喝采を上げるどころか、小谷は硬直してしまっていた。
 ほとんど落ちてくるのと変わらぬ速さで降りてきて、無事着地した、的。名取を見て。
「小谷さん」
 名取は、見下すような視線を送って、言った。
「呪術師を、怒らすもんじゃないですよ?」
 薄く笑って、言ってやった。
「うわあっ!」
 小谷は、銃を落として尻餅をついた。目に見えぬ何かがいくつも掠めていった。瓜姫と笹後だ。
 その背後には、柊が立っている。抜刀して。
「う、う・・・・・・」
 3人の式神の殺気を感じて、小谷が身動きとれずに固まっている。
 目に見えないけれど、たしかに何かがいるのだとわかるのだ。
 名取の指示一つで、敵意をむき出しにしているそれらが、何をすることか・・・・・・。
 小谷が動けずにいるうちに、男らが駆けつけてきた。
 式神たちは入れ替わりに姿を消す。小谷は、男達に取り押さえられた。
 名取は息を吐くと、大木に身を寄せた。自分のために、傷ついた木に。
「名取さん、大丈夫ですか!」
 スタッフの呼びかけに「大丈夫ですよ」と静かに返して。
 幹に両手を触れながら、大木を見上げた。
 弾があたったところの、波動が乱れているのが見えるようだった。
 悪意を実害とともに受けて、木がショックを受けているのがわかる。
 もう大丈夫だ、と、念を送る。
 ごめんなさい、もう大丈夫ですよ、と。
 騒ぎが落ち着くまで、名取はずっとそうしていた。
 訊ねられれば「大丈夫」と返事をしつつ。
 少しずつ、木のショックがやわらいでいく。伝わったのだとわかる。
 人数が多いので、人も落ち着くのに時間がかかっていた。それをいいことに、10分くらいはそうしていただろう。
 もう大丈夫かな、と思えるようになったころ、ぽん、と、肩を叩かれた。
 振り返ると、5〜60歳くらいの背は低いが筋肉質な男が脇に立っていた。
「木に、弾が当たったのかい?」
「・・・・・・ええ」
「ふうん。私は高橋だ。榊署の。お父さんの囲碁仲間だよ」
「・・・・・・ああ・・・」
 名取は、現実を思い出した。実は、すごい状況であったのだ。
「お世話になっています。昨日の荷物、やはり麻薬入りだったそうで。ゆうべ、警視庁の刑事さんが事情聴取に来られましたよ」
「うん。奴の件絡みだろうということでね。これで決定打だな」
 見れば、すでに小谷の姿はない。替わりに、制服警官や刑事らしい男たちがうろついていた。
「小谷はここに撮影に来たことがあり、そのドラマの撮りなおしにお前さんが行くと聞いたんで、念のため警戒していたんだよ。まさか銃を持っているとは予想していなかったんで、発砲を許しちまった。怪我はないかい?」
「大丈夫です」
「木から落ちたのは?」
「降りただけです、落ちたのではないですよ。木登りも木から降りるのも得意です。鎮守の森で慣れてますから」
「おいおい、神様の森で木登りかい?」
「嵐で折れた枝とか、日常的な管理は私の仕事ですから」
「はあん、なるほど。おまえさんなら、木もなぐさめられるんだな」
「・・・・・・」
 あの父の友人だ。色々、父の変わったところも知っているのだろう。その息子も、その血を引いているからこうなんだ、と思っているのだろう。
 説明は不要だ。
「・・・・・・撮影、今日撮らないと、放送間に合わなくなるんです」
「ああ、現場検証もあるが、犯人は確保できてるから、そんなに時間はかからんよ。幸い、ここはうちの県だ。できるだけなんとかしてやる」  名取は、身を引いて腰を折る。
「よろしくお願いします」

 同じ森林公園のほかの場所での撮影をしつつ、現場検証に呼ばれて行ったりまた撮影に戻ったり打ち合わせたり。
 現場検証が済むと先ほどの大木での撮影を再開。
「さっきの、もっかいやって」という監督の要望で、木から超スピードで降りる場面も追加された。
 木に登ってみると、弾は警察によってすでに掘り出されていた。痛々しい傷跡をなでてやる。癒せるわけではないけれど。
 撮影は、夜のシーンまで続き。
 終わったのは真夜中だった。
 名取は、マスコミが取り囲む中、安藤の車で現場を離れた。
「大丈夫か?」
 今日、何度訊いただろうかという台詞だ。
「大丈夫」
 何回同じ答えをしただろうか。
 もはや疲れも感じない。
 安藤は何も言わない。休めということだろう。
 座席に用意されていた毛布をかぶって、名取は目を閉じた。
 どこに連れて行かれるのかもわからない。この騒ぎだ、自宅に戻しはしないだろう。事務所でもないだろう。どこかホテルか何かだろう。
 なんにせよ、そこに着くまでの、つかの間の休息。
 その後の予定は、どうなるのだろうか。
 もう、何も考えられない。
 起こされたら、ちゃんと起きなくては。
 ただ、それだけを思って。
 意識を闇へと沈めた。

 名取は、翌日は丸1日、都内のホテルで休養に専念した。
 体の気を整え、増幅させ、気力面ではかなり回復させることができた。
 次の日はまたスタジオで探偵物の稽古があるため、ホテルをチェックアウトする。
 そうして、スタジオに入る前に少しマスコミの取材を受けることになった。
「体調も優れないので少しだけ、てことにするから、2〜3分な」
 その程度の時間なら、たいした質問は出ない。少しでも映像が撮れれば、追っかけまわしているマスコミも減るだろう。
 安藤の指示に従って、スタジオの中で少しだけ取材を受ける。マスコミ側も、混乱しないよう一人が代表して質問してきた。
 体調は大丈夫ですか、小谷さんに襲われてどう思いましたか、麻薬を送りつけられたそうですが小谷さんがやったことだと思いますか。
 名取は、顔色が悪いまま、薄く笑って答えた。
 体調はだいぶよくなりました。びっくりしました、何が起きたか最初わかりませんでした、送りつけられた荷物のことは警察におまかせしています、と。
 体調はまだ全回復はしていないので、充実させた気力を少しおさえればいくらでも体調不良にみせかけることができる。
 すぐに安藤が、打ち合わせどおりに体調がすぐれないので仕事に差し支えないようにこれまで、とインタビューを中断させた。
 しつこく質問が追いかけてきたが、安藤らにむりやり連れ去られるようにしてエレベーターへ押し込められる。
 ドアが閉じてから、名取はため息を落とした。
「大丈夫か?」
 いい加減聞き飽きた感がある。
「まあ、大丈夫」
 いい加減、とりつくろうのも面倒になってきた。
 スタジオ入りしてから、名取は気づく。
 探偵物は、立花組がメインの撮影スタッフだ。
 先日の大騒ぎ以来の、立花とのご対面、だ。
「な〜と〜り〜〜〜〜〜」
「なとりさ〜〜〜〜〜ん」
 監督とカメラスタッフが、恨めしげに待ち構えていた。


 はい、お待たせいたしました。これにて『人と人』終わりです。でもって、第二部終了でし。
 次こそは名取さん元気です(笑)いやあ、ダウン中な名取さんに萌えちゃってなかなか元気にしたくなくっていじめまくってしまいました〜♪
 次は人気急上昇中の名取さんですね。色々立花監督に絡まれながら、映画の撮影準備とかお引越しとか。色々楽しく書く予定です。
 名取さんの自室が原作に出てきたので、お引越しさせるんですけどね(笑)
 う〜ん、普通の電話だなあ。でも受話器とってないもんね♪てことで家電破壊魔名取さんという設定は継続。
 インターホンはいいのか、暗証番号の入り口は大丈夫なのか〜〜? まあ、パワー自由自在ということで、一時的なものは大丈夫ってことにしちゃうですよ。オリジナル設定ですしね〜(←いい加減)。

 さて皆様、防災の準備は大丈夫ですか? 喉元過ぎて忘れちゃった方いませんか?
 震災被災地では未だに通常の生活は戻っていませんが、被災しなかった地域はもはや過去のことと忘れかけている方々もいらっしゃいましょう。
 日本は地震大国です。世界の8割の地震が起こる国です。そして、大地震の卵はまだまだ日本にはあるのです。
 自分の住まい周辺でどこが危険かわからない方は、お住まいの都道府県のホームページの防災のページを見てみてください。
 公式に「将来大地震が起こる可能性のある場所」とその被災予想がたいていは出ています。発見されていない断層や無視されているものもあるわけですが。とりあえず、公式なものだけでも十分怖いので、一度見てみてください。
 海が近い方は、ためしに茨城県の防災ページを見てみてください。津波CGがあります。延宝地震のCGは、まさにこれから来年にかけての期間で起こる可能性が高いと一部では言われている大地震の被害に合致する可能性の高いものです。
 すべての災害に対応した対策をとることは誰にもできません。
 できる対策をしておいてください。
 動きやすい靴や服装、そして、持ち物に小さいペットボトルと飴だけでもいれておくと非常時のパニック予防になります。
 家の中で一番安全な場所はどこか。家族との待ち合わせはどこか。
 決めることを決めて最低限飲食物を持っているだけで、パニックや絶望を少しでも軽くすることができます。
 備えることを備えた上で、年末年始をお過ごし下さい。
 いやなことばかり書きましたが、いたずらに恐れないで下さい。パニック予防が第一の警戒文です。最低限の備えはしておいたほうがパニック予防になります。
 余裕があれば少しずつ増やして。水や食事の備蓄は、消費しつつ新しいものを買い足して循環させれば古くなりません。
 いたずらに恐れて、日常を忘れてはいけません。それでは、なんのために生きているかわからないでしょう。
 大地震に備えるために生きているわけではありません。今を大事に生きることが大事です。その上で、未来も生き続ける道をみることも大事だということです。
 どんなに備えても、原発が被災すればこの事態です。カタログハウスが昔だした浜岡原発の被災予想は強烈ですよ。ネットで探してみてください。
 必要な情報は今は、インターネットにたくさんあります。情報の取捨選択は必要ですが。
 パニックを予防するために大事なことを知らせない、なんてこともあるので、必要な情報は自分でゲットしましょう。
 ではでは、いずれ、また。
 多分、年内の夏目更新はないと思います。皆様、良いお年をお迎え下さい。

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