パソコンに向かって何やら作業中のリンと、後ろでぼんやりとそれを見物している滝川。
ベースに、二人きりだった。
「・・・・・・リンさんや」
返事はない。キーボードを叩く音が続いている。けれど、聞いてはいるようだ。
「・・・・・・その髪、女に『三つ編みさせて(はあと)』とか言われたこたないかい?」
ぴたりと、単調なリズムがとぎれた。
「なんです?」
「だから、三つ編み」
「なぜ三つ編みなんですか?」
「前髪。長いから」
「だからなぜ三つ編みなんです?」
「いや、なんとなく」
「言われたことがあるんですか?」
「・・・・・・そんな覚えがある気もするな」
「させたんですか?」
「いんや」
「そうですか」
一度も振り返らず、リンは再びキーボードを叩き始めた。
「だってよ、想像してみてくれよ。寝ぼけてどうぞーとか言って、そのまま寝ちまって、
翌朝起きたら細かい三つ編みだらけにされてて、ほどいたらうりゃうりゃと髪っつー髪が
波打ってるなんてのを。とっさに断ったオレは偉かったなとか思うわけだよ」
リズムは一時崩れ、それはしぶとく再開される。
「で、時々もし、それをほんとにやられたヤツがいたらとか思うわけだ。けど、少年も
ジョンも、ナルも三つ編みする長さねえだろう。おまえさんなら長いなあと」
「私で想像しないでください」
「想像ならとっくにした」
ぴたり、と指が止まった。
「ただ、実際にやられたことはないのかなあと」
「ありません」
「そうかい。邪魔して悪かったな」
「いいえ」
リンは、再び指を動かし始めた。