危険妄想1(1999.11.1)
危険妄想2(1999.11.1)
「よう。ナルは?」
渋谷のSPR事務所を訪れた滝川は、珍しくソファにおさまっているリンに入り口から声をかけた。
「谷山さんとお昼に出ています」
読んでいた資料を置いて立ち上がったリンに、滝川はぱたぱたと手を振ってみせた。
「今日はちょっと急いでんだ。これナルに渡しておいてくれないか。今ダチに借りたんだけど、次の用で荷物になるからよ。ナルちゃんにも役に立つものだから」
「はい」
滝川は本屋の袋に入れた資料らしきものを手渡し、リンさんの入れてくれたアイスコーヒーが飲めなくて残念だなあと言いつつ、本当に急いでいるようでじゃあナルちゃんによろしく、と慌ただしく立ち去った。
袋の上部は折られているだけで、今にも開こうとしている。リンは、何か珍しい資料でも入っているのかと、口を開いてのぞきこんだ。
すると、リンの目に、いのうえは◯みの半身ヌードが飛び込んできた。発売されたばかりの写真集・・・。
「・・・・・・」
見なかったことにしようと、リンは即断した。
「ナル、先ほど滝川さんがこれを」
まもなく戻ってきたナルに、リンはいつもの無表情を保って本の袋を手渡した。
「ぼーさん来たんだあ。いっつもずうずうしく居座ってるのに、帰っちゃったんだ。めっずらしーの」
一緒にもどった麻衣が、お茶を出したようすがないのを見てとって言った。
「急いでいるそうで。これを届けに来ただけです」
「へえ。よっぽど大事な資料なのかな」
「そうですね」
袋の口を開けて半ばまで中身を出したナルは、あわてて袋に戻した。
「ん?雑誌?目録つくる?」
「貸してくれるだけですから必要ありません」
「・・・・・」
ナルはリンを軽くにらむと、すたすたと所長室へ閉じこもった。
その日SPR本部から届いた郵便の中に、ナルあてに一本のビデオテープが届いた。霊姿が映りこんでいるのでと、サー・ドリーが送ってきたものだった。
「?」
霊の姿が映ったビデオをわざわざ送って寄こすとは、よほど珍しいものが映り込んでいるのだろうか?
ナルは早速、ビデオデッキにテープを入れてみた。
「・・・・・・」
じっくりと目を凝らしてみても、どこにもそれらしき姿はない。白い姿が二つ映ってはいるのだが、絡み合ってるこれがそうということはまずあるまい。
30分ほどのビデオが終わり、とうとう見つけられなかったナルは、同封された手紙を見直してみた。
最後の一文が気になった。
(返却不要につき、よくさがすように)
みつかるまで、何度も見ろということだ。
「・・・・・・」
何かの策略のような気もしたが、ナルは、リンに協力を求める事はしなかった。
そして、何度見ても霊の姿はどこにも見あたらなかったのだった。