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想い出(2001.7.30)

 枕に頭を落とし、布団をかぶる。
 手を伸ばして、薄暗い天井を見ながら目覚ましのスイッチを確認する。
 窓に視線をやって、動かないカーテンを確認して。
 スタンドのスイッチに触れて、部屋を闇の中に。
 カーテンの隙間からこぼれる明かり。
 急に聞こえてくる外界の音。
 目を閉じる瞬間に、必ず掠める影。
 16、7の黒髪の少年。
(ジーン・・・・・・)
 眠りに入る時、必ずあなたを意識する。
 忘れない。忘れられない。
 人は必ず眠るから。
 夢に現れるあなたを、毎日、思い出す。

 目覚ましの音、カーテンからこぼれる明かり。外界の音。
 眠りから覚め、支度をし、学校へ向かう。
 どこかで、ふと思う。
(逢えなかった・・・・・・)
 朝目覚めてすぐに。
 朝食を採りながら。
 ふと空を見上げた時に。
 友人と挨拶を交わした拍子に。
 一日のはじまりに、あなたを思い出す。

 学校を終え、アルバイトへ。
 お茶出し、資料整理、来客の相手。
 本を書類を抱えて歩く黒い姿。
 仲間達と語らい、時に笑みを見せる彼が。
(ジーンなら・・・・・・)
 彼だったら、今なんて言っただろう。
 彼が好きなお茶はなんだろう。
 私の言葉に、どんな顔をするだろう。
 扉を開けて私が来れば『いらっしゃい』と。
 お茶を差し出せば『ありがとう』と。
 帰る時には『また明日』と。
 彼は、言ってくれるだろうか。
 お給料をもらえる仕事中に、それでも私は思い出す。
 あなたのことを。あなたの笑みを。あなたの死を。

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