「ああっ、くっ・・・ぅ」
安アパートのことで、派手な声を上げるわけにいかない。
術のためにするわけではないのだから、もう少し時間をかけて欲しい。しかし、やはり的場は気が短いようだ。
初めからその気があったのか、潤滑剤を携帯してきてくれたおかげで、覚悟していたほどの痛みはないが、塗りこんだらもう、なじませもせずに本番開始だ。単に知識がないのか、気が短いのか。
案外、前者かもしれない。
この人は、女相手にもこんなSEXをしているんだろうか・・・・・・。
「ううっ・・・・・・」
呻きながらもなんとか体の力を抜こうと努力して受け入れながら、名取は思う。
「今回は、マグロはやめてくださいよ」などと最初に言ってきた割には、こちらが何をする余裕も与えない。前戯もほとんどない。潤滑剤は持ってきたくせに、ゴムの用意はなかったらしく、名取の備えを出させた。ベッドの引き出しにあったそれが未開封だったのをからかいながら、全裸になることを要求し、あとは、どんどん勝手に先に進んでいった。
ほとんど、苦痛だけのSEX。今の名取には、のぞむところだ。
しかし、名取はなんだかんだと経験豊富な連中から誘われたこともあれば話を聞いたこともあるので、知識だけはある。やり方次第で痛みを少なくすることはできるし、女のようなイキ方をさせることもできるのだと聞いていた。
はっきり言って、的場はキスはうまいが、SEXは下手だ。的場の動きに耐えながら、名取は断じた。
立場が強すぎて、誰も教えることができないのかも知れないし、立場の強い人間だから、相手をいたわるようなやり方をする気がそもそもないのだと思われているのかも知れない。
それとも、本当にいたわる気がないのか。
名取は、少しでも体の損傷を防ぐために、的場の動きに合わせて息をしたり、力を抜いたり、感じようとしたりした。的場の方では、感じているからと見えるかも知れないが、わざわざ違うと教えてやるのも失礼だろう。
的場が体を離して、体位を変えさせた。後背位で再び深々と押し入って名取に悲鳴を上げさせて、力を緩めることもできずにいるうちに、名取の中心を掴んだ。
杭を打ち込みながら、そちらをさすってくる。一応、イケるように気を使ってくれるらしい。なんとかそちらに集中するようにして、名取は苦痛を紛らわせる。背にかぶさるようにしていた的場が、体を起こした。
「あっ! はっ、あ・・・・・・あっあ・・・」
体を起こして、名取の腰をつかまえて動く。手で触れなくなったのに、快感への刺激が上がった。
ちょうど、的場の先が、名取の前立腺の位置に当たるようになったのだ。
これが、話に聞くやつか・・・・・・。
名取は苦痛と快感が同居する自身の中心に惑わされながら、必死に声をおさえた。そして、より感じようと自分から腰を動かさないように自制した。名取にとっては、快楽に浸るためのSEXではないのだから。
それでも、的場にも名取が感じていることが伝わったようで、同じ場所を強弱を変えて探るように突いてきた。たまらず、声が漏れる。
名取はベッドについていた片手で自分の口を塞ぎ、残る片手で勢いを支えきれずに肘をついた。角度が変わって快感から一時逃れたが、目ざとく気づいた的場が、再び角度を合わせてきた。
「んっ、んっ、ふっ・・・・・・あ、ああっ!」
抑えきれずに、今度は枕に顔を押し付けてみる。激しい動きに、呼吸が耐えられずに顔を上げると、もう悲鳴に近かった。
「もう、やめ、・・・・・・は、あ、あっ・・・・・・終わりにしてっ」
これ以上、溺れたくなかった。次の一突きで、名取は射精した。そのリズムに合わせるかのように更に腰を動かした的場が、つられたように達した。
「は、あ・・・・・・」
やっと終わった・・・・・・。
急激に快感が引いていく感覚に安堵して、名取は体をゆっくりと倒した。その動きに合わせて、的場が離れる。呼吸を整えながら、名取はティッシュの箱に手を伸ばすとベッドの上に投げ出し、自分の吐き出したものを拭き取った。的場もティッシュをとって、後始末をしている。狭い部屋のことで、ゴミ箱もベッドのすぐ脇だ。
名取は恐る恐る的場に入られた場所を拭いて、また多少傷ついたらしい感覚を得た。が、あまり食べていないおかげで、衛生的には悪い状態ではなかったようで一安心だ。今回はそこまで事前に準備する暇がなかったので。
片付いたのか、的場が名取の隣りに身を横たえた。寒いので、2人で1つの布団をかぶった。
前回は、気を大量に採られたために直後に意識を失ってしまったので、その後的場がどうしたのか知らない。けれど、柊が現れたのはそれから間もなかったようだし、用があると言っていたので、こんな風に並んで休んだりはしなかっただろう。
小さな明かり一つしか点けていないので、どんな表情で休んでいるのかは、よくわからない。
的場が、こちらを向いた。手を伸ばしてくる。
「すごい汗ですね」
こめかみの辺りに触れて言う。対して、的場はわずかに皮膚が湿っていた程度だ。
「微熱、あったようですけど。大丈夫ですか?」
今更きかれても・・・・・・。
体調のせいなのだろう。後半の汗は特にひどかった。熱い汗ではなく、体を冷やす汗だった。
名取はベッドの奥側に的場を残して、ベッドを降りた。タオルを2本とってきて、1本を的場に渡してから、自分の汗をぬぐった。
見れば、コタツの天板の上に、酒瓶と、杯が二つ。更に、パッケージを開けたコンドームの箱と、長方形の小さいものが、一つは開いて、一つはそのまま、載っていた。
未開封の方のものをつまみ上げ、よく見てみる。小分け包装の潤滑剤らしい。こんなものをいつも持ち歩くとも思えないので、今夜はその気があって上がりこんで名取が目を覚ますのを待っていたということらしい。
術は二度としない約束だが、SEXは別の話、ということなのだろう。
普通の状態なら、名取は誘いに乗る気はさらさらなかったのだが。
思うに、こういうタイミングで的場が現れるというのは、仕掛けなのかも知れない。
いわゆる、タイミングが良い偶然、だ。見えざる手が働いたとしか思えないような。
深い意味があるような、ないような。
名取にとっては、仕掛けとしか思えないこの状況。
「・・・・・・・・・・・・」
あえて、考えずに次の自分の行動を思ってみた。
思い起こすのは、先ほどの的場との交渉中に思った色々だ。
名取は、ため息を落とした。疲れた。このまま眠りたい。が。
見れば、的場は横になったままタオルで体の湿りを叩くように拭いている。
名取は、タオルを首にかけたまま、ベッドに戻った。