「服、着た方がいいんじゃないですか? 名取さんは」
「・・・・・・結局、マグロですみませんでしたね」
「ああ、そういえばそうでしたね」
「そういえば、術は関係ないんですよね」
「満月じゃないですからね。約束違反じゃないでしょう?」
「そうですね・・・・・・。つまり、どっちでもいいんですよね、本当なら」
「どっち、とは?」
名取は、指に挟んだものを的場に見せる。潤滑剤のパックだ。
「つまり、どちらが男の役でもいい、ということですよね?」
的場が、眼帯に包まれていない方の目を見開いた。意外な話だったらしい。
「マグロ2回じゃ申し訳ないので、1回頑張りましょうか?」
「結構です」
「心配しなくても、術じゃないので、私は挿れませんよ。そんな元気もありませんしね」
「・・・・・・」
「気持ちいいお返しだけしてあげますよ。それで、終わりにしましょう。術も、術なしのこういう関係も」
「・・・・・・」
横たわったままの的場の顔の横に片手をついた。
頬に触れても、的場は何も言わない。片目を閉じることもしない。
名取は、的場の腰に手を移してベッドの真ん中に移動させた。
「冷たい」
「ああ、すみませんね」
先ほど名取が吐き出した場所が濡れたまま冷えた上に、体がのったらしい。名取は首のタオルを的場の体の下に敷いてやった。
それから、改めて頬に触れ、顔を近づける。
キスでは負けるかもしれないけれど。
唇を重ねて、手を頬から首筋に移す。
経験値も負けるかも知れないが、知識と相手を思いやる気持ちはあるので。
今後、的場が男であれ女であれ抱く時に、少しでも相手を思いやれるように。
首筋の、血管の筋をそっと撫でる。舌を絡ませながら。
首筋にそって指の腹で撫でるように降ろしていき、親指で乳首に触れ、4本の指で胸の脇を撫でた。
舌がわずかにこわばった。親指を動かすと、舌が引っ込もうとする。その舌を舌で追いかけながら、更に乳首と胸の脇をさすってやる。反対の手で、的場の頭を押さえた。
意外と、男女の性感帯に差異はないのだが、女のように感じることに抵抗感があるのかもしれない。
執拗にディープなキスを重ねながら、手のひらを下ろしていく。そうっと腹をなでながら。へそに人差し指を落とすと、下肢が動いた。へそを支点に、他の指で腹をなでさする。
的場が、口を開放しろと、舌を引っ込めて頭を動かした。開放してやると、声を抑えているかのような呼吸を一つした。
今度は、首筋に唇を落とす。唇で撫でるように、わずかに舌先を出して濡れた刺激を与え、あとはまた胸へと降りていく。下腹ぎりぎりを撫でながら。
まだ、体は横に並べたままだ。ふと、名取は体を起こした。
「初めてじゃ、ない?」
なんとなく、そう感じて問うた。
「・・・・・・ありますよ、されたことは」
吐息交じりに、的場が応える。視線が合った。
強い瞳が、名取を見返した。
「私にも、立場の弱い時代はあったんですよ」
「・・・・・・ああ」
そういうところで、されたというのでは、強制的か、屈辱的にか。
やさしいSEXを覚える環境にはなかったのだろう。
ここで受身になる気になったのも、そうした過去があればこそ、か。
名取は、また的場の首筋にキスを落とした。
胸を、腹を、腰、内腿を、そうっと愛撫を繰り返す。的場が、時々吐息を漏らす。すでに、そのモノは立ち上がっていたが、あえて無視した。
すでに、的場なら本番も終了するほどの時間、愛撫に時間をかけた。
いい加減じれてきたようなので、ようやく、的場の中心に触れてやる。わずかに腰が引かれたが、構わず軽くさすって、形をさぐるかのように指を動かす。二つの丸い玉が入った皮の方も、手のひらで包んでみる。頭を動かして首筋をさらしたので、また、そこに舌を這わす。的場の先端はすでに濡れていたので、それを塗り広げながら先の方を刺激してやる。さて、どこまでやってやろうか。
「いたたっ」
急に、的場の手が伸びてきて名取のをつかんだ。
「こっちはいいですよっ」
振り払おうとしたが、離さない。
「なんでまだこうなんです?」
名取の方は、わずかに硬くなっただけだったのをつかまれたので、指が食い込んで簡単にはとれない。
「私の方はもういいんですってば。病み上がりなんですから察して下さいよ」
「なんだか、気分よくないですねぇ」
「別にあなたが女でも今の体調じゃ2回無理だからっ」
「若いくせに」
興ざめしたのか、あっさり手を離した。せっかくここまで積み上げた雰囲気が台無しだ。わざとだ。
愛撫からやり直す元気はない。名取は、コタツの上に手を伸ばす。コンドームを開けると、的場の方につけた。
「やっぱり受身になりますか?」
「違いますよ」
どうしようか迷っていたのだが、やはり前戯として、加えた方が良さそうだ。
「何・・・・・・あ・・・っつ」
的場が、初めて呻いた。
加減を誤って、歯があたってしまったので。
ゴム臭い。が、ゲイでもないし、悪いが生のままする気にはなれなかった。
前に唇と舌を駆使しつつ、ようやく、後ろの方にも触れてやる。腰が引かれるのを押さえ、足を閉じようとするのを膝を上げさせて押し開いた。周囲を指の腹で撫でながら、口では吸い上げ、包み込む。
「は・・・・・・あ、あ・・・・・・」
ようやく、的場の口から抑えた声が漏れ始めた。
口が疲れるまで、後ろと間の玉を弄んでやった。的場は、名取の頭を押しのけようとし、腰を動かし、足を名取の体に絡ませ、感じていた。
まだイカれてしまっては困る。
名取は再び、コタツに手を伸ばす。ゴムと、潤滑剤をとった。
「ん・・・・・・」
潤滑剤を、少し穴の周囲に塗り、軽く指先を入れる。腰が逃げた。
名取は、コンドームを右手の中指にはめて、改めて潤滑剤を垂らす。的場の方と、自分の指の方につけると、指先を押し入れた。
「んっ・・・ん」
中指一本、まずは第一関節までだけ。それで、潤滑剤を塗りこんでいく。左手で腰を撫でて、力を抜けと合図すると、的場は吐息を落として緊張を解いた。
第一関節から、第二関節まで。内側をさぐりながら。他の指で周囲も塗り広げ、液体を温める。
指一本を、入るだけ入れて、探ってみる。
「あっ、・・・・・・っ」
硬さの違うところ、ちょうど、棒の根元の位置。的場は耐えようとしたが、感触でここだとわかった。
あえて奥行きを浅くして、乳首に口付けながら浅く刺激していく。気が回らなくなって、とうとうそちらの力が緩むまで。
緩んできたところで、指を2本に増やす。慣れてきたところで、ここだとわかっているぞ、と、前立腺の位置に触れてやる。
本番の予定はないし、3本入れても動かしにくそうなので、浅い刺激で様子をうかがった。
前を握って動かすと、手で押さえてきた。すでに十分寸前らしい。
ならば、と、2本の指を奥へと押し込んだ。
「は、ああっ・・・・・あ、んんっ」
一瞬口付けて声を抑えろと伝える。それでも、指の刺激はやめない。的場は、呼吸を荒げて声を抑えた。名取は、確実に前立腺を攻めながら、首筋を、胸を、腰を、刺激する。
そろそろ、限界かな。
自分の腹と的場の腹の間に的場を挟んで、こすりあげる。その動きにあわせて、2本の指で追い込んでいった。的場は、完全に余裕を失っていた。
「はっ、ああっ、あ、あっ!」
腹の間で、脈打つように精液が吐き出されるのが伝わった。最後に、そっと奥の硬いところを一撫でしてやる。
「んんっ」
もういい、と、名取の体を押してきたので、体を離した。そうして、ゆっくりと指を引き抜く。
的場が、安堵の息を吐いて、体を閉じて足を伸ばした。
目を閉じたまま、呼吸を整えている。刺激が残っていたのか、一度身震いした。
的場の分まで片付けて、名取は再び、的場の隣りに身を横たえた。体をずらしてくれたので。
的場も、さすがになんのコメントもできないらしい。壁の方を向いている。
名取は横になったまま汗を拭いて、タオルを下に落とした。自分のも後半完全に硬くなったが、そちらにつきあってやる元気はない。自然におさまるだろう。
・・・・・・疲れた。
でも、何やら、さっぱりした。
目を閉じた。眠ろうとしたわけではないが、すぐに意識が落ちていく。抵抗する間もなく、名取は一瞬で眠りに落ちた。
しばらく体が落ち着くのを待っていた的場は、いつの間にか名取が眠り込んでいることに気づいた。
布団を掛けもせず、全裸をさらしたまま。
途中萎えていたそれが、今は元気になっていた。いたずらしてやりたくも思ったが、すでに名取の体力は限界のようだったし、マネして口を使う気にもなれなかったので、やめた。
名取を跨ぎ越してベッドから降りると、布団を掛けてやる。ろくに暖房もない部屋なので、このままだと風邪を引くかもしれないが、まさかパジャマを着せてやるところまで手間をかける気にはなれない。さっさと自分だけ着物を着直すと、コタツを前に座り直す。すでに、酒以外は片付けられていた。
特に、体に痛みは感じない。手酌で残った酒を杯についで、飲んだ。
名取は、熟睡している。
その顔を眺めながら、更に酒をつぐ。明かりは小さくついたままだ。
自身も乱されて。
『終わりにしましょう』
名取の言葉どおりにする、決心がついた。