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ひとり 22の2

 ナルは、後ろから抱いていた麻衣の胸に手をまわした。
 小山の先端に指が触れる。そこだけ、肌触りが違った。
 指先で触り比べていると、のっぺりとした先端の感触が縮んでいき、先が尖る。尖った先は、小さく丸みを帯びていた。
 反対の手で腹を撫で、更に脚に手を伸ばす。太腿の間に差し入れて、片方の腿を撫でる。
 首筋に唇をあてて、少しだけ、舌先でにじむ汗を味わった。
「・・・ふ・・・」
 麻衣が、身を固くしてわずかに声を漏らす。
 腿を撫でていた手をそのままずらすと、少しごわついた毛に指が届く。
 そのまま毛を撫でて、脚の間を指で探る。
「んん・・・」
 毛に埋もれた中に小さな凸凹があり、それを丁寧に指先で分けて行く。麻衣が脚を閉じそうになり、ナルは胸にあてていた手も下ろして太腿を押さえてそれを防いだ。
 凸凹を探り降ろして行った先の、長さのあるへこみ。
 ここだな、と。ナルはそっと指先で撫で広げてみる。
「ふ・・・ん・・・ん・・・」
 わずかに指先を埋める溝を撫でながら少しずつ深めていく。肉の固さと、わずかなぬめり。
 ナルは、自分が性的に高まるのを感じた。
 女性の「性」に気が高ぶる。
 ナルにとっては、初めての経験だった。
 自分で必要な排泄行為をしていたときは、刺激を与えるだけで、世間の男のように女性の「性」を意識して、してはいなかった。ナルにはそれができなかったのだ。
 世の男たちが求めるもの。罪を犯してまで求めるもの。
 これが、そうなのだと。ナルは、自分の高ぶるモノを麻衣の背に押し付けて、ようやく理解していた。
 罪を犯した罪人たちの歪んだ想いへと引きずられる余裕もない。
 中指の先を沈めて探る場所。とてもナルが押し入れるとは思えない固く狭い深み。
 排泄行為ではない。これは違う。互いを求める行為。凸凹を埋めるこの行為は、そんなものではないのだ。
 狭い湯船の中で、ナルは麻衣に体の向きを変えさせた。向かい合う形に。見たことがない、麻衣の表情。湯にのぼせたのか、唇を開いて浅い吐息を漏らしつつ、ゆるくまばたきをしながら、開ききらない目でナルを見ている。
 きっと、自分も知らない表情をしているだろう。
 湯の浮力にも手伝わせて、ナルを麻衣の腰を抱き上げる。麻衣は、ナルの肩に手を置き、膝から先を湯船の底についてその動きに従う。
「そのまま、自分で・・・・・・」
 ついさっき、今はしないと言ったことなど忘れた。
 今夜はしないと決めたことも忘れた。
 麻衣のペースで、沈めていけと。
 ナルの先を麻衣の間にあてがい、持ち上げる力をわずかに緩める。麻衣は、膝から先への力加減とナルの肩に置いた腕の力で、沈まないように体を停めた。
 そうして、互いに見つめ合った。麻衣が、ナルを見降ろしている。
 麻衣はナルに顔を寄せ、唇にキスを落とした。
 その動きで、わずかに身が沈む。自然に割れるやわらかい部分の分だけ。
 ナルは、その唇を唇でとらえる。押し付けて、つまんで、舌先で舐めて、更に押し入った。
 ナルの唇と舌の動きに合わせるかのように、麻衣がわずかに腰を沈める。固いそこは、骨に薄い肉が覆っているだけのようだったのに、そのすべてが肉であったとわかる。固いけれど、それは確かに肉だった。
 つらいのか、わずかに持ち上げてはゆっくりと腰を沈める。そんな麻衣の唇をねぶりながら、ナルは自分が麻衣の中に埋もれていくのを感じていた。
 麻衣が膝先と腕だけで調整できる深さになると、ナルは腰の手を外して麻衣の尻をなで、胸を探った。
 次第に深めつつ浮き沈めるのに、今度は膝が邪魔になり、ナルは一度麻衣の腰を上げさせる。麻衣はナルの首に手をまわし、ナルはその膝を自分の腰にまわさせた。
 そうして、再び腰を沈めさせる。
「・・・ん・ん〜〜っ」
 もはや麻衣に調整できない加減を、ナルが腕の力で降ろしていく。つかえると少し上げて、また重力に頼りつつ、勢いがつき過ぎないように、腕で支えることを繰り返し。
 麻衣がナルの上に体を下ろしきって、うめきながらのけぞったその喉に、ナルは唇でかみついた。
 腰と、腕の力で麻衣を上下させて、確かに自分たちがつながっている感覚を味わった。
 しかし、行為を続けるには狭い湯船は動きにくくて・・・・・・。
 ナルは、もう出よう、と。
 離れがたくも、麻衣をうながした。

 風呂を出て、軽くタオルで拭いただけで、ベッドルームに移動した。
 掛布団を剥がし、まだ拭き残しがある麻衣の体を横たえる。
 その上に、ナルは覆いかぶさった。
 キスをして、喉を、乳首を吸い上げて。
 麻衣が小さく高い声を上げる。
 聞いたことのないそんな音に、初めての行為におぼれていく。
 手順も何も考えられない。ただ、傷つけたくないとだけは思えた。
 それでも高ぶる思いに、ナルは麻衣の膝を開かせて、身を沈める。
 けれど、湯の中で一度開いたその場所は、再び固く閉じられてしまっていた。
 指で探れば湿り気もわずかなぬめりもあるのだが、指一本でさえ深く差し入れることができるように思えない。
 ナルは、その場所を開かせて見た。カーテンを開けたままの部屋。外は暗くなり始めていたが、まだ夜よりは昼に近い。
 くさむらの中に、ピンク色にぬめりを帯びた肉の割れ目が見えた。
「やっ、あ、あ、やっ、あっ・・・・・・」
 麻衣がナルの頭を押して抵抗した。ナルは麻衣の腰と太腿を腕でかき寄せて。
 ピンク色の肉の中へ、舌を差し入れた。
 麻衣がナルの頭を押して、腰を引こうとし、そして、高い短い声を漏らした。
 引こうとする腰の動きを追って、ナルはその深みを広げていく。
 水中出産が痛みを和らげる効果があるように、湯船の中では抵抗が減っていたのだろう。  指よりも、舌の方が湿りがあるので、麻衣を傷つけずに広げられる。ナルには、もはやなんの抵抗もなかった。
 ナルの唾液以外の湿り気が、湧いてくる。麻衣の手は、今やナルの髪を絡めるようにして頭を抱えていた。舌を差し入れられる限界まで押し広げることに成功すると、ナルは顔を上げて自分の指をねぶり、それからそこに指先を差し入れた。一本は奥まで、二本目は途中まで入る。それを抜いて、ナルは麻衣の足を手で押さえて、自分が麻衣の中に埋もれていく様子を、引いては押ししながら見守った。
 麻衣は、荒い呼気に時に音を乗せ。ナルを受け入れていった。
 完全に埋もれるのを見届けて、ナルは麻衣の上にかぶさった。
 胸をあわせて、麻衣の額に、頬にキスをして。
 それから、動いた。
 初めはどう動けばいいのかわからなかったが、次第に安定した腕や膝の位置もわかり、動きやすくなる。麻衣を抱いているのだという実感が欲しくて、麻衣の体を起こして湯船にいた時の姿勢で腰を抱く。麻衣がナルを見下ろす形になる。ナルが自分の腰をゆすり、麻衣の腰を腕で動かすと、麻衣がナルの肩や首にすがりついて必死に力加減をしようとする。麻衣の腰を動かす力を緩めると、麻衣が自分でナルの動きにあわせて動いてくれた。
 はたして、麻衣が痛み以外のものを感じているのかはわからない。
 しかし、その場所は確かにナルを受け入れているし、麻衣も体を引きはがそうとはしていない。それどころか、ナルの後ろ髪をなでたり、自ら唇でナルの肌に触れたりもしてくる。
 これが、セックスか。
 ナルは、これがしたくてたまらないと騒いではしゃいでいた若い男たちの会話を思い出す。ジーンや、ジーンの友人たち、ナルに絡んでくる同級生らが、女生徒がいない時に語っていた。いや、これは、ジーンの記憶だろうか。>
 ようやく、その気持ちがわかった。
 ジーンが、ナルと統合されてきているからこそ、わかったのだろうけれど。
 昇りつめる感覚に、そういえば、避妊具がないからセックスを一度はあきらめたことを思い出す。ヤバい。
 けれど、もはや抜きたくはない。麻衣は生理が終わったばかり。普通であれば日数的に安全日。けれど、万が一ということもあるし、本来であれば指などに付着する恐れもないようなスタート時点からゴムを装着すべきである。
 そんな知識を思い出しつつも、ナルは麻衣を再びベッド寝かせて自分だけで動いた。麻衣の膝を開かせて、奥深くを攻めている。麻衣が苦しげに顔をそむけている。セーブしなくてはいけない。中で達してしまってはいけない。けれど、もう少しだ。
 ナルは、動きを緩めて麻衣のこめかみにキスをし、髪を撫でてやる。そうして、再び激しく動き出した。
 麻衣が引きつるような声を漏らし、喉をさらす。ナルの背に回していた手が、指が、爪をたてた。
 その痛みを感じながら、ナルは動き。
 本当にぎりぎりに麻衣から抜け出して。
 シーツに精を吐きだした。

 

 湯上りだったせいもあるのか、汗ばんだ麻衣の体を抱き寄せて、ナルはベッドに身を横たえる。
 麻衣は、顔を見られたくないのか、ナルの顎の下に頭を埋めている。
 ティッシュとゴミ箱はベッドのそばにあったので、吐きだしたものはできるだけふき取って捨てた。麻衣にも渡してやると、麻衣も一応その場所をぬぐっていた。
 カーテンの外は夜になりつつある。
 肌寒さを感じて、ナルは足元に避けたままだった掛布団を引っ張り上げた。
 静まっていく体の興奮に、先ほどまで支配されていた感覚が遠く感じる。
 色々やらかした自覚はある。
 初めての、こんな細い体の麻衣にほぼ手加減なしで動いてしまったし。
 何より、避妊もせずにしてしまった。
 ナルは、麻衣の髪をなでる。顔を見せない麻衣の頭をなでてやる。無理をさせてしまった。
 体が急激に重たくなっていく。ナルは、目を閉じて麻衣の頭を撫で続けた。
 手もだるくなってきて、最後には頭に手を載せるだけになって。汗が冷えて行くのが感じられる。
 ねぎらって、服を何か着させるか、それともシャワーを勧めるか・・・・・・。
 そう、思ったのだが。
 すとんと。
 ナルの意識は落ちてしまった。
 急激に、深い眠りへと。

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