一面の、海原・・・・・・。
出発した港はとっくの昔に見えなくなっていて、そうか、地球は丸いのか、なーんて思っているうちに、
見えてきました、観光地としても有名な某島が。
「わー、すごーい、本当に島だあ」
周りは海、海、海。そして、空。そこにぽっかりと島影が浮かぶ。そして、自分の足下はエンジン音も
快調に波を蹴散らし海原を駆け抜けて行く、船。
おとなしく中に籠もっていられずに、あたしは船の甲板に出て、島が見えるのを今か今かと待って
いたのだ。
「島国の住人が何を言ってんだかねえ、このお嬢さんは」
「本州の住人にそんな自覚あるわけないでしょー? 船旅だって初めてなんだから」
SPRでバイトをはじめてもうじき5年。はじめた頃は若干15歳の高校1年生だった私、谷山麻衣も、
今や女子大生。なんと、20歳になりました。
そして、今回の調査は、初の本州脱出! 今回ばかりは呼びもしないうちからおなじみのメンバーが参加
を決めていたという感じで、ほとんど慰安旅行気分だったりして。
もちろん、ナルとリンさんは別。あの2人は、
自他ともに認めるワーカーホリックだからね。相変わらず。
「あ、あれじゃない? 調査先の小島!」
某島より左側少し手前に、小さな島影が見えた。そう、調査先は、観光気分を満喫できる島ではなく、
そこから更に小さなお船でえんやこらと移動しなくてはならない個人所有の小島なのだ。
仮にも東京都で島一つ所有するとは・・・・・・。お金持ちっているのよねー、ホントに。
まあ、この仕事を仲介したのが綾子なんだから、さもありなん。
無事に見事に玉の輿に乗り、今やほとんど霊能者は廃業状態という綾子。なのに、何故かうち(SPR)
の仕事には顔を出すのよねー。えへへ、ちょっと寂しかったから実は嬉しいんだけど、内緒だもん。
その綾子は一足先に、昨日、小島に渡っている。先に小島にあるお屋敷の図面なんかはもらってたんだ
けど、それを実際に目で見て機材がどれくらい必要か、とかを、挨拶を兼ねて先に行って連絡して
もらうってわけ。
綾子のこの提案に、ナルはあっさりと頷いた。綾子ももはやうちの調査法に関してはベテランだって
認めているのかな。
その連絡は昨日の夕方には来たんだけど、ど広い部屋が使用人の部屋を含めて40室もあるとかで。も
う、どーすんだ! って感じだったんだけどねー。幸い、被害を報告されている部屋数は少なかったので、
その部屋数より少し多めにカメラとかを積んで。
おまけに、綾子の情報によれば、本島から小島への移動手段は10人と乗れない小さな船だというこ
とで、機材の運搬に不自由するのは確実。
それで、今回は機材もあまり増やさず、2班に分かれての調査ということに決まった。
「かなり大きいお屋敷というお話でしたのに、見えませんわね」
いつのまにか、真砂子が隣りに来て小島を眺めていた。確かに、そんなに大きくない島だから、どでかい
お屋敷なんてのがあったら見えそうなものなのに、崖と島を覆う木々しか見えない。
「ああ、てっぺんだけ見えますです。反対側に建ってるんですね」
ジョンに言われてよく見たら、ホントだ、島の真ん中にちょこんと屋根が見える。太陽がそっちの方角に
あるから、お屋敷は南向きに建てられているんだろうな。
正面から見たら、島いっぱいにお屋敷が建ってるんじゃないだろうか。資材を運ぶのもさぞ大変
だったろうに、築70年って言うんだから、あれを建てた人はかなりのお金持ち・・・・・・。
う、いかんいかん、貧乏性だわ。
本島に接岸してから、まず向かったのは港近くの旅館。まず、そこで事務所のワゴンから機材の一部を
おろす。
それから港に戻り、迎えに来てくれていた小島の船に残りの機材を積んで、リンさんと安原さんを残して、
小島に渡った。
カメラや測定機器類を優先して運び込み、回線を開きっぱなしにして、旅館に陣を構えるリン
さんがデータを受信、解析するというわけ。安原さんはその助手という名目で、実際には探偵をする。
初めてのパターンなんでうまくいくのか、ちょっと不安。けど、このやり方にもっとも反対していたの
は何を隠そう、リンさんだった。
調査中にナルから目を離すのが心配だったみたいで、ナルとぼーさんと3人で何やら所長室に籠もって
話し合った結果、分かれての調査が決行されることになった。
ようするに、リンさんからぼーさんに、ナルのお目付役が委任された、ということみたいで。リン
さんも実は苦労性なのかなあ、なんて。ナルはナルで機嫌は悪くなっているけれど、諦めた様子で
時々ため息をついている。
まあねえ。やっぱり、お目付役は必要よね、ナルの場合。
女の霊が出る・・・・・・。
綾子に紹介されてやってきたのは、とある有名製薬会社の社長夫人。
社長さんのお父さんが若い頃、晩年に悠々自適に過ごすために手に入れた小島。
昭和初期に建てられた豪勢な別宅
付きで、お父さんは3年ほど前にそこで大往生を遂げ、その小島を社長さんが相続したのだそうだ。
そこに、幽霊が出る。出るだけならまだしも、被害者が出た。近くの本島では幽霊島などと呼ばれる始末
で、滅多に行くこともない別宅のために、わざわざ調査の依頼にやってきたのだと、夫人は長い前置きを
30分以上かけて話した。
幸い、ナルが出かけていたので、社長夫人の話を聞いたのはリンさんと安原さんとあたしの3人。
ナルだったら計3時間も話を聞くなんてことはしなかっただろうから、
話をせかして社長夫人の機嫌そこねて依頼取り消しになってたかも。
良かったのか悪かったのか。旅行気分で調査できるかもなんて考えでいたあたしは、
あまりに甘い認識だったと、たっぷり後悔することになるのだった・・・・・・。
本島から小島までは、船で10分ほど。綾子に迎えられて、機材をとりあえずベースに運び込む。
それから、別宅の管理一切をまかされている小川さんというおじいさんから改めて話を聞いた。
「食料品などを配達してくれている業者さんの船が、壊れまして・・・・・・」
週に2回、通常の生活必需品は本島の業者さんが配達をしてくれるのだそうだ。先月、いつものように
若い男性が一人で配達にやってきた。帰ろうとしたところ、船のエンジンがかからず、また、小島の船も
点検で本島にあり、戻るのは翌日。低気圧の影響で波が荒く、ボートは危険ということで、業者さんには
その日は泊まってもらうことになった。
そして、翌朝、彼がバルコニーから転落し倒れているところを、庭掃除に出た高橋さんがみつけたのだと
言う。
業者さんは浴衣を引き裂かれ、体中に引っ掻き傷を負っていた。話によれば、金縛りになり、
現れた女の幽霊に襲われて、さんざんな目にあったあげく、金縛りが解けても女がいたので
たまらずバルコニーから飛び降りて逃げたのだと言う。
落ちた際に足の骨を折って動けなくなり、バルコニーから下を見下ろしている女の霊に怯えながら
朝まで下に転がっていたんだそうだ。
怪我をして逃げられないところを更に襲われたらと、痛みと恐怖と寒さにさらされて過ごす一夜
・・・・・・。うっひゃあ〜〜〜。
彼が本島に戻って、その話が島中に広がり、小島は幽霊島とささやかれるようになった。
噂を放置しておけず、小川さんがご主人に報告、社長夫人から相談を受けた綾子がうちに仲介したと
いうことになる。
「幽霊が出る、という訴えは、初めてではないということですが?」
ナルの問いに、小川さんはうなづく。
「はい。以前から、若い使用人が・・・・・・。男も女も、部屋に幽霊が出ると訴えて、3日と持たず
やめてしまう状態でして」
話すのは、もっぱらナルと小川さん。けど、室内は人だらけだったりする。あたしは、ドアの横にもたれ
て話を聞きながら、小川さんの背後に居並ぶ人たちの様子をうかがっていた。
この小島で住み込みで働いているのは、小川さんを含めて7人。全員40歳以上で、うち、夫婦が3組。
雇い人の頭であると同時に、主に建物管理をまかされているのが、小川さん夫妻。二人とも、几帳面そう
な感じで、ほっそり小柄な、よく似た夫婦だ。
敷地内の建物以外のものを主にまかされているのが、高橋さん夫妻。
船の管理や本島への買い物なんかをまかされているのが深山さん夫妻。
そして、唯一の独身にして最年少(といっても40歳)の笹本さんは、年輩の人たちにできない諸々の
作業その他を担当しているということだった。
この、笹本さんが、ちょっとねえ・・・・・・。
大勢さんが相手の調査だと、必ず1人はいるのよね〜。そんなに、睨みきかさないで欲しいなあ
・・・・・・。ただでさえ、笹本さんて、体おっきくて筋肉マンで、怖いんだから・・・・・・。
「3階は旦那様ご一家がお使いになる部屋です。先代の時代から、こちらで幽霊が出たという話は聞いた
ことはございませんが、以前の所有者の方は、3階から転落して亡くなられたと聞いております。
2階は客室と、我々使用人の部屋になっております。1階は広間や遊戯室、応接間と厨房です。
幽霊が出るのは、2階です」
「みなさんにお伺いしますが、これまで、幽霊を見た、あるいは見慣れないモノを見たり聞いたりした
という方は、いらっしゃいますか?」
ナルに問われて、誰もが互いに伺いあい、首を振る。
「我々は、誰もそういった経験をしていないのです。だからこそ、これまで旦那様にも特別報告して
こなかったのです。古い建物で、しかも離島ですから、慣れない者は不安からありもしないものを見て
しまうのだろうと考えておりました」
「では、辞めていかれた方々は、見たり聞いたりしただけで、今回のように襲われたり、怪我などはな
かったのですか?」
「いえ・・・・・・。引っ掻かかれたと訴える者はいました。実際に傷も見せられましたが、
どこかに引っかけたのだろうと」
どうやら、全員、幽霊がいるって信じてないみたい・・・・・・。
ベースは、2階。泊まるのも同じく2階。これが豪勢な部屋で、
もったいない〜。あたしと真砂子は同室。綾子は堂々と1人部屋。ナルとぼーさんとジョンは家族向けの
部屋に3人一緒で、その部屋のリビングに当たる部屋がベースになる。
話を聞いて、建物の中を一通り案内してもらってベースに戻ると、機材の山が黙って迎えてくれる。
なんか、ほっとしちゃうわ。
「真砂子、いた?」
「いますわ。屋敷中に。空き部屋になっている使用人部屋にも。10人以上、みんな、若い女性の方です
わ」
「・・・・・・ホンマもんの幽霊屋敷ってことねぇ」
ぼーさんは、相変わらず呑気だ。
「先代の時代からここで死んだ人は老衰で死んだ先代本人のみっていうんだから、問題はここを造った
前の持ち主ってことだわね」
「3階から落っこって死んじゃったって人?」
「建てたのは戦時中のことでしょう? 当時の権力者なんて、何やってるかわかんないわよ」
「年季の入った幽霊さんかー。若い女ねぇ」
ろくでもない権力者のお屋敷にいる浮かばれない女性たちの霊・・・・・・。
あたしが見ても何もわからなかったけど、大勢、ここにいるんだ・・・・・・。
「2階の廊下と、使用人部屋の空き部屋3室にカメラとマイクを。3階の廊下と前の主が転落したという
部屋にも1つ設置しよう。原さん、他に気になる場所はありますか?」
「奥から2番目の使用人部屋の浴室の霊が、存在感が強いですわ」
「では、そこは浴室にも」
その結果次第で方針を決めるということで、すっかり手慣れた一同が機材を運ぶ。
使用人部屋は・・・・・・狭い。
一応、各部屋にお風呂とトイレがついてるんだけど、ドアを開けると
すぐ、作り付けのクローゼットがあって、横には小さなドレッサー。その奥には狭いベッド。ベッドの脇は
ぎりぎり人が歩ける隙間しかなくて、ベッドの終点は窓。バルコニーを出ると、目の前はわずかな庭、
そして鬱蒼とした林。北向きで、バルコニーにも苔がはびこっている。
入ってすぐわきに、左手にお風呂、その奥にトイレ。隣の部屋は、入って少ししてから右側にトイレ、
その奥にお風呂。
「必要最低限の設備、だね」
「個室なのが唯一のとりえってとこかねえ」
「かび臭い・・・・・・」
「いやがらせに、こっちの部屋あてがわれなくて良かったな」
浴室とトイレをのぞけば、縦長3畳くらいの部屋。床のスペースは入り口付近が少し空いているだけで、
着替えるのがやっとだったろうな。
そのスペースにカメラを置いて、浴室は内開きだったので、迷った末に湯船に苦労してバランスをとって
カメラを置き、ケーブル分の隙間を残して扉を閉める。
さあて、次、次。
ベースに戻ると、ナルが1人でカメラを運び出すところだった。
「それはどこの?」
「上。マイクとケーブルを運んでくれ」
ぼーさんはジョンを手伝いに行ってしまったので、2人で3階に機材を運ぶ。使用人用の狭い階段。
正面の階段は学校の階段の倍は幅はあるっていうのに。
まあ、そんなふかふか赤絨毯の階段なんか使って
重い機材ごと転げ落ちるのはごめんですけど。
3階は、めったに使われないという話なのに、ピカピカのふわふわ。ご主人の部屋に至っては、うっかり
物に触れない。つつけば指紋がくっきりつきそうな家具類と、すごい高価そうな装飾品で、もう、くらくら
きちゃう。
カーテンの向こうは、一面の海原。日が沈んで暗くなり出し、水平線がぼやけはじめていた。
機材を設置
しているところに小川さんの奥さんが来て、分厚いカーテンを閉じて明かりを灯して出て行った。その間、
一言もない。
「あたしたちって、歓迎されてない?」
「よくあることだろう」
「そうだけどさ、一人もいないってのは、初めてかも。依頼人来てないし。ご飯出るのかな
・・・・・・」
「綾子がいるから大丈夫だろう」
「あ、そっか」
道理で、ナルがおとなしく交渉役を綾子に任せていると思ったら。綾子というVIPをないがしろ
にするわけにはいかないもんねえ。
部屋が広いので、ナルがカメラをもう1台取りに行く。その間、あたしはカーテンの隙間を広げて外を
見ていた。
だだっ広い白いバルコニー。柵の向こうは暗い海。月のない夜。星明りが海面を照らしている。
こんな離れ小島で死んでいった女性たちが、この屋敷をさまよっているのだろうか?
思い出すのは、諏訪のヴラドの屋敷。
若い男女の首を切り裂き血の浴槽に浸かり長寿を願った・・・・・・。
ここでも、悲しい惨劇が繰り広げられたのだろうか・・・・・・?
窓の外の景色が、ふいに遮られた。
(あれ?)
分厚いカーテンの奥に、もう一枚薄いレースのカーテンがある。それがこぼれて前を遮ったのだろうと
思って手をのばしかけたあたしは、背筋を駆け抜けた悪寒に、凍りついた。
(レースのカーテン? ・・・・・・違う)
服だ。
窓の向こうが透けて見える。メイドさんが来ているような、服・・・・・・。
あたしは、恐る恐る目線を上げた。
白い前掛け。ブラウスの胸元のボタンはちぎれている。青白い喉が見えた。細い顎。呆然と薄く開かれた
唇・・・・・・。
あたしより少し背の高い、若い女性だった。
日本髪に結って、メイドさんの服を着たその女性は、ただ目を開いてそこに立っていた。
カーテンと窓の間に。あたしのすぐ目の前に。
あたしは、じりじりと後ろに下がった。カーテンの境は暗いけれど、部屋の中は明るい。女性は、ただ
そこにいる。あたしは、すでに動き出しているカメラの視界を遮らないように、壁際へとにじり寄って
行った。
壁に寄せてある棚にたどりついたところで、扉が開いた。ナルがカメラを持って戻って来たんだ。
「麻衣?」
ナルの真正面にあたる窓にいる女性。ナルには見えてないんだ。
「・・・・・・ナル、女の人がいる」
ナルはカメラを置いて、あたしが指差す方を見る。
「麻衣、出るぞ」
開いた扉に手をかけたまま、ナルが手招く。ナルには見えない。けれど、あたしには見える。今は
ただ立っているだけでも、あれは、害意のある霊なんだ・・・・・・。
突然、明かりが消えた。
「あっ!」
「麻衣!?」
突然、足をつかんで引かれ、あたしはバランスを崩して転んでしまった。
足。棚の足下に20センチほどの隙間があった。
扉から入る明かりで、そこからのびる手が見えた。
しっかりと、あたしの足首をつかんでいる。
「ナウマクサンマンダバザラダンカン!」
はじかれたように手が引っ込み、あたしは立ち上がる。ナルのいる扉まで一気に走る。はずだった。
ナルの声がして、激しい勢いで扉が閉まった。
「ナル!?」
部屋は真っ暗になってしまった。わずかに、カーテンの隙間から星明かりが漏れるだけ。部屋の奥までは
届かない。
扉の数歩手前で立ち止まったあたしは、それ以上動けなくなってしまった。
闇のせいじゃない。指一本動かせない、金縛りのせいで。
「・・・・・・っ!」
ナルを呼ぼうにも、声が出ない。さっきの声はなんだったの? 霊は1人じゃなかった。主人を転落死
させた霊が、今、ここにいる。
耳を澄ます。他に、できることはない。
かすかに、絨毯を敷かれた床を這いずる音がする。さっきの棚の下から、こちらへと向かってくる音。
音は、もう一種類聞こえる。これは、扉の近くから。何をしているのか、判然としない小さな音。
ナルのそばに、霊がいるんだ。
さっきのナルの声は、扉を閉じさせるために、霊に何かされたせいなんだ。
ナルが危ない。
(ナウマクサンマンダバザラダンカン・・・・・・)
声も出ない、指も動かない。あたしは、心のうちで真言を唱えはじめた。効果があるかどうかは
わからない。2回唱えたところで、足にしがみつかれたけれど、構わずに続ける。
3回唱えて、九字。靴下をひきおろされて、素肌に爪を立てられた。痛いけど、そんな場合じゃない。
(臨兵闘者皆陣裂在前)
頭の中で九字を切るさまを思い浮かべる。服地の破ける音が聞こえた。ふと、金縛りがゆるんだ。
「ナウマクサンマンダバザラダンカン!」
印を結び真言を唱えると、足にしがみつくものが爪を立てながら退いて行く。
続けて、一気に九字を切る。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前!」
ぱっと、明かりが灯った。
「ナル!?」
ナルが、首を押さえて膝をついた。
喉元を血が伝い落ちていく。きちんと留めていたはずのシャツが胸元まではだけていた。
駆け寄ったあたしの腕の中に、ナルは倒れ込んだ。
「ナル!?」
呼びかけても、ナルは動かない。廊下を駆けてくる足音が聞こえた。